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ここのところちょっとネタ切れのようなので、視点を変えてピンク映画の名作について書いてみたいと思います。
下書きしていたらあまりに長くなってしまい、容量オーバーで入り切らなかったので2つに分けます。
取り上げたいのは1983年10月公開の「連続暴姦」(新東宝)。監督は「おくりびと」で一躍有名になった滝田洋二郎である。 2009年に滝田洋二郎がアカデミー賞を取ったことで、この「連続暴姦」も結構注目されたみたいだ。もっともそれはピンク映画ファンに限られていたけど・・・・。
シネポ様の映画館勤務時代にも「連続暴姦」が上映されたのではないでしょうか。その時の状況を覚えておられたら教えて頂きたいです。
当時の滝田洋二郎は「痴漢電車」シリーズなどコミカルな作品を主に撮っていたのだが(殆ど見ていないけど)この作品はシリアスでサスペンスタッチ、いくつもの伏線が隠されており、思わず引き付けられてしまう。ネット上にレビューがいくつか載っているがどれも評価が高い作品です。
完全ネタバレしているので、映画のハラハラ感を体験したいのなら以降は読まないで下さい。 敬称略で書き進めていきます。
作品はセーラー服の女子高生が若い男に追われている場面から始まる。女子高生は林の中に逃げ込むがそこで捕まってしまいレイプされてしまう。 これは映画の1シーンだった。映画の中の映画なので話がややこしい、以降「映画」と書いてあるものは「映画の中の映画」ということにする。なおこの映画の題名も「連続暴姦」である。
ただ、このレイプシーンは酷いもので、女子高生役は佐々木裕美という女優なのだが、レイプされているのに表情が全く出ていない。嫌がっている台詞はあるのだが口は全く動いていない。 佐々木裕美の名前で「日本映画データベース」を検索しても別人が出てくるだけ、「連続暴姦」の出演者にも載っていない。映画の友では西沢百合子の名で紹介されている。西沢百合子で検索をかけると同年に1本出演があるがその1本だけ。演技力がないのか、それとも監督の意向で無表情の演技をしているのか?かなりの謎だ。
この作品の舞台は今はなき東京の上板東映になっている。
この映画館の映写技師・勝三(大杉漣)は映写室からこのレイプシーンを見ていた。レイパーの太腿に蛇の刺青があるのを見て勝三の顔色が変わった。明らかに動揺している。映画館の支配人(螢雪次朗)が声を掛けても上の空だ。さらに仕事を放棄して映画館を飛び出してしまう、映画館の従業員・波子(麻生うさぎ)が声を掛けても無視。「誰にも見られてなかったはずだ」とつぶやき自分の家(アパート?)に帰ってしまう。
波子が勝三の部屋を訪れる。『支配人怒ってたよ』と伝えにやってきたようだ。玄関で立っていた波子に『入りなよ』と勝三が声をかけると波子の表情が緩む、どうやら勝三に気があるようだ。2人は酒を一緒に飲み始める、そしていきなり勝三が波子を押し倒す。一瞬だけ拒絶する波子だったがあっさり勝三を受け入れる、まんざらでもないようだ。勝三のズボンを脱がすと太腿には蛇の刺青があった、映画の男と同じだ。これは一体・・・・。
翌日、勝三は映画の配給会社を訪れていた。対応に出た配給会社の企画部員・駿河(末次真三郎)はこの映画が脚本家の過去の記憶を元に作られた事、脚本を書いたのはエンター石油に勤める山崎千代子というOLであることを伝えた。駿河は煙草を吸う為に勝三に背を向けたがその隙に勝三は消えてしまった。「山崎千代子というのは・・・・」と言いかけた駿河の言葉を聞かずに・・・・。
翌日の映画館、勝三が映写室から映画を見ている、ちょっと憔悴している様子だ。映画のレイプシーンでは男がレイプしながら女子高生の首を絞めて殺してしまう。それにしてもこの映画館、映し出される度にこのレイプシーンが出てくる。常に『いや、やめて・・・』の声が館内に響き渡っている、「他のシーンはないのか?」と思うほどだ。
場面が変わり、あるオフィスのトイレ、1人のOL(竹村祐佳)が化粧を直している。名札に「山崎」と書いてある、例の山崎千代子らしい。そこへ冬子(織本かおる)がやってくる、2人は普通の関係ではないようだ、千代子が冬子に対してマウントをとっている。
エンター石油のビルの前に勝三がうろうろしている。千代子が会社から出てくると男が『山崎さん・・』と言寄ってくる、勝三は山崎千代子を認識したようだ。千代子はその後冬子の部屋にやってきた、そしてレズプレイが始まる。でも冬子は千代子を何となく嫌っているようだ。
数日後、千代子が人気のない夜道を1人で歩いていると勝三が声をかける。『映画をみせてもらったよ』と言うが千代子は何のことだか分からない、勝三は千代子に襲いかかり、レイプした挙句絞殺してしまう。
翌日?駿河が血相を変えて恋人冬子の部屋にやってきた、山崎千代子が殺されたという新聞記事を見て慌ててやってきたのだ。でも冬子は『そう、あの人殺されたの?』と素っ気ない。レズの相手なのに・・・。やはり冬子は千代子をを嫌っていた。 実は映画の脚本を書いたのは山崎千代子ではなく冬子だったのだ、山崎千代子というのはペンネームにすぎなかった、冬子は同僚の名前を拝借していたのだ。 そして冬子は12年前、姉・秋子(織本かおる・二役)がレイプされた挙句絞殺されたことを駿河に伝えた。 『右足の太腿に赤い蛇の刺青をした男が私の姉さんを犯して殺したの・・・・・』
でも、この言葉には何となく違和感がある。主語が男になっているが普通は自分に近い姉が主語になるのではないか? 『私の姉さんが蛇の刺青をした男に犯されて殺されたの・・・』と言うのが普通ではないかと思ってしまうのだが・・・。
そして直後、そのレイプの回想シーンが流れるのだがこのシーンは映画と同じ林の中で場所は同じなのだがリアルさが映画と全然違う。 まず遠景、男が少女にのしかかっている。男のズボンは既に脱げ、少女の膝には白いものが。少女の胸は完全にはだけ、肩のあたりに僅かにセーラー服が絡んでる。そこから一気に少女の顔にズーム、少女は苦悶の表情を見せている。この間およそ10秒。そして次の瞬間男の手は少女の首を絞めにかかる。それを幼い子が見ている、子供の時の冬子だ、そして少女は息絶える。 全体で1分ほどの短いシーンだが、よく撮れている。映画のシーンが何とも情けないから余計にリアル感が出ている。監督はこのシーンを強調するために映画のレイプシーンで佐々木裕美にあんな酷い演技をさせたのだろうか?それとも佐々木裕美がド素人だったのか? レイプされる織本かおるにセーラー服を着せるのはちょっと無理があるかも知れないがカチューシャをつけさせて少女らしく見せているし、1分程度のシーンだからまあいいだろう。
回想シーンのあと、1つの白い手袋がテーブルに置かれた、回想シーンの最後に残っていたものだ。冬子曰く、『どこにでもある手袋だけど、透明のテープが張り付いている。調べたら映画のフィルムを繋ぐときのテープだった』 これにも違和感がある。普通こういうものは警察が持っていっちゃうでしょうに。ということは冬子が拾って警察に見せることなく持ち帰ってしまったということか。それに映画のフィルムを繋ぐテープって、警察の鑑識が調べるならまだしも素人が調べてわかるものなのか?
ちなみに、映画のフィルムを繋ぐテープってかなり高価なものらしい。10年くらい前ピンク映画の関係者の方に聞いたことがあるけど、見た目は普通のテープと変わりはないが、1本5000円くらいするそうだ。
テープの話になって駿河が思い出したように語った。『そういえば昨日、上板東映の映写技師があの映画のことを聞きにきた』『ライターの名前を聞かれて山崎千代子ていうペンネームを教えたものだから、本当の山崎千代子が殺されたというわけか・・・』
これで、謎の部分が全てつながった。 冬子は山崎千代子というペンネームを使った時点で彼女が襲われるのを予想していたのだろう。
駿河は『警察に行こう』と冬子に言うが、冬子は『あいつを自分の手で裁かない限り私は人を好きになれない』と拒否する。そりゃ警察に行ってしまえば問題はいとも簡単に解決してしまうが作品はそこで終わってしまう。 けれども、『あいつを自分の手で・・・』という言い分はいかがなものか?もっと他に良い表現はなかったのかと思う。
つづく |