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翌日、駿河が上板東映にやってくる。そして波子に『連続暴姦は本当にあった話で、犯人の特徴が映画の中に描かれている』そして『ライターが連続暴姦の続編を書き始めているということを勝三に知らせてくれ』と言って去っていった。
映画館の客はみんな帰ってしまい、支配人も帰っていった、残っているのは波子と勝三だけだ。波子は勝三に会おうと映写室にやってくる。だがそこに勝三はいなかった。波子はふと映写室ののぞき窓から映画を眺めた。ちょうどレイプシーンの最中で(映画館の映像が流れる時はいつもレイプシーンの最中だが)、強姦魔の太腿に蛇の刺青を見つけ、そして駿河の言葉を思い出した。波子は勝三がかつて強姦殺人を犯したのだと知った。 直後、勝三が現れる。震える波子。波子は連続暴姦のライターが続編を書いていることを伝えた。勝三は一瞬動揺する『そんなバカな・・・』殺したと思っていた目撃者が生きてまだ生きているのだから当然だろう。
波子は勝三に『一緒に逃げよう』と怯えながら言うが、勝三『俺の過去を知った奴はみんな殺してきた』と意気込む。映写室から逃げ出す波子。 波子は1階の客席の方に逃げる。しかし、スクリーンの前まで来てしまえば行き止まりだ。『誰にも言わないよ・・・』と懇願する波子。波子に馬乗りになり首を絞める勝三、そこはスクリーンのあるステージ、そしてスクリーンでは絞殺シーンが流れている。映画の絞殺シーンの前で繰り広げられる絞殺、なんともシュールだ。 そして(ひとつのシーンを挟んで)勝三が波子の死体を担いで深夜の林の中を歩いて行く、死体を林の中にでも埋めるつもりか。
ここにいくつかのツッコミ所がある。まず、波子の逃げる方向。映画館の外に逃げれば簡単に逃げられるのに逃げた先は行き止まりの客室、これは現実的ではない。次に、林の中を死体を担いでいくのはいいが、映画館からどうやって運び出すのか?深夜といえどもそこは東京、仮に車を使ったとしても車に積み込む時に通行人くらいいるだろうに・・・。
まあ、これは「スクリーンで絞殺シーンが流れている前での絞殺シーンを撮りたかった」ということに他ならないのだろう。ある程度やむを得ないと思う。
あと、勝三が「自分の刺青と映画を見れば自分が殺人犯であることがわかる」状態なのに波子とSEXするのはどうだ、SEXすれば自分の刺青が見えてしまうのは分かりきっているのに・・・・。波子の首を絞める際、『何で(見るなと言ったのに映画を)見たんだ』と叫んでいるが、それだけ「愚かな犯罪者・・・」ということなのだろうか。これも流れの内だから仕方ないか・・・・。
翌日、駿河が上板東映にまたやってくる。しかし勝三はそこをもう辞めていた。嫌な予感がした駿河は冬子の部屋に行くが彼女は帰っていない。この時既に冬子は勝三に追われていた。
ここでこの作品の最大の欠陥がある。この時点まで勝三と冬子の接点がないのだ。山崎千代子を襲った時は会社の前で待ち伏せしたりしてちゃんと接点が作られているが、冬子にはそれがない。ひとつ前のシーンで駿河が冬子に『今日、会社にあの男から電話があって冬子のことを聞かれた』と話しているのが精一杯の接点になるが、電話では冬子の顔とか容姿とか分からないし殺人犯であることが分かっているのにベラベラと冬子のことを喋るはずないし・・・・。監督としてはもう少し尺がほしかったのではなかろうか?
さて、ここからがクライマックス。 勝三に追われた冬子は縫製工場の跡らしい廃屋に逃げ込んだ。追い詰められる冬子、(あらかじめ用意していた)果物ナイフで勝三を刺そうとするが失敗、武器のなくなった冬子は組み敷かれてしまう。そしてお約束のレイプ・・・。だが冬子はあまり抵抗しない、反撃のチャンスをうかがっているのか? レイプが終わって勝三はタバコに火をつける、レイプの最中に胸のポケットからタバコの箱が飛び出している。これは何かの暗示かそれとも偶然なのか?そして急に思いついたのかライターの火を最大にして冬子の顔に近づける、火で顔を炙って遊ぼうというのか? ところが、ライターの火が突然消える、点火しようとしてもなかなか火がつかない。その隙に冬子がハンドバッグにそっと手を伸ばす。次にライターの火がついた瞬間、冬子が勝三に向かってヘアスプレーを吹きかける。ヘアスプレーのガスは可燃性がある、ガスにライターの火が着火してあたかも火炎放射器のように炎が勝三に放射され勝三の顔を焼いた。この時ばかりと冬子が脱兎のように逃げる。
勝三は眼も焼かれたようだ、あまり前が見えない。 それでもわずかに見える光をたよりに冬子の姿を確認する。そして棒(落ちていたマネキンの腕)を振り上げ冬子のところに走って行き殴りかかる。だがそれは冬子の姿が映った鏡だった。鏡を破壊し、そのままの勢いでその先にある窓ガラスに突っ込んでしまい窓から飛び出す。ここは2階、地上に転落した勝三は絶命してしまう。
眼が見えづらくて鏡に映った冬子に殴りかかるというのは面白い発想だと思うが、「鏡に向かっていったのなら自分の姿が写ってしまうのではないか?」と初めて見た時疑問に思った。だが、改めてよく見てみると鏡の少し横から殴りかかっている。これなら自分姿は映らないし、ちゃんと 冬子だけ鏡に写っている、リハーサルを何回もやって上手く写るようにしたのだろう、改めて見るといいシーンだ。
冬子の復讐は終わった、冬子は無表情に勝三の死体を見おろしている。ここでエンディングとなる。
終始、喜怒哀楽を表さない織本かおるの演技が印象的だった。姉が殺されるのを間近で見ていたという設定だったのでそういう演技になったのだろうが、よく表現されていると思う。
あと、大杉漣も素晴らしかった。当時、下元史郎とか大杉漣とかピンク映画の俳優さんの中でもよく知っていたけれど、後年、こんなに有名な俳優になるなんて当時は全く思いもしなかった。亡くなられたのが残念です。
「鏡に映った冬子」「ヘアスプレーが火炎放射器に」「ペンネームの秘密」「スクリーンの絞殺シーンの前での絞殺」サスペンス的な見所が一杯あって最後まで見飽きない素晴らしい作品だと思う。ツッコミ所はいくつもあったけど予算の限られているピンク映画だからそれは目をつぶってもいいだろう。いや逆にピンク映画でこれだけのサスペンスが描けるのは凄いことだと思う。滝田洋二郎はこの時から既に「ただ者ではなかった」というわけだ。
一番印象に残ったのは冬子がペンネームを拝借しただけで山崎千代子が殺されてしまったこと。自分の手をかけずに嫌な人間を消すのに「こんな方法があったのか・・・」と思ってしまった。 でも、実社会でこんなことが起こったらどうなるのだろうか?その人間が殺されるかも知れないと分かっていながらペンネームとしてその名前を拝借することは何か責任が問われるのだろうか?また、民事訴訟になったらどうなるのだろうか? 一度、法律の専門家に聞いてみたいものです。
シネポ様
こんな長いのを書いちゃいましたけど、いいですか? ちょっとBBSの趣旨から外れてしまうような気もするのですが・・・・。 |
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